相続税の計算が手にとるように分かる!必須知識
相続税はどのようなものかは知っていても、どうやって計算するかについては、税理士などの税金計算の専門家でない限りわからないものです。
人の一生のうち、相続をする機会はせいぜい一度か二度で、いざ相続税を計算するという事態に直面した時には、困惑してしまうのも無理のないことです。
当サイトでは相続税とはどのような税金で、税額の計算から納税までのプロセスはどのようになっているかなど、相続税を計算して納税するための必須知識をお伝えします。
1.相続税は亡くなった人から引き継いだ遺産(相続財産や贈与財産)に課税
相続税とは
相続税とは、被相続人(亡くなった人)から遺産を引き継いだときに、その引き継いだ財産に対して税金が課されるものです。
相続や遺贈(遺言で財産を引き継ぐこと)によって相続財産や贈与財産を引き継いだ人は、相続税を納める義務があります。たとえ親族以外の人であっても、贈与財産を引き継いだのであれば、相続税をきちんと計算して納める義務があります。
ただし、遺産を引き継いだ人がすべて相続税を納めなければならないわけではありません。遺産の総額が一定額以下であれば具体的な計算をするまでもなく、相続税はかかりません。
また、相続税の計算にはさまざまな特例や税額控除があり、税額を計算した結果、0になることもあります。
税制変更で課税対象者が増加する?
平成27年1月1日から相続税の税制が変更されました。最も大きな変更点は、「基礎控除額」の引き下げです。
相続税は、遺産の総額が一定の額以下であれば課税されません。この一定の額を「基礎控除額」といいます。
税制変更により、基礎控除額は次のように引き下げられました。基礎控除額の計算方法は以下です。
変更前) 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数変更後) 3,000万円+600万円×法定相続人の数
基礎控除額が引き下げられたことで、相続税の計算の基礎が大きく変わり、比較的遺産総額が少ない人でも相続税がかかるようになりました。
これまでは一部の資産家だけが対象であった相続税ですが、税制変更で課税対象となる人が増えると見込まれています。
とりあえず、基礎控除額程度は計算してみると安心です。
相続税の計算に欠かせない相続人の知識
遺産を相続によって引き継ぐことができる人は、民法で定められた範囲の親族(法定相続人)に限られています。さらに、法定相続人の中でも相続できる優先順位が定められています。
- 常に相続人となる:配偶者
- 第1順位:子
- 第2順位:(第1順位の相続人がいない場合)直系尊属(父母や祖父母など)
- 第3順位:(第1、第2順位の相続人がいない場合)兄弟姉妹
民法では、法定相続人が引き継ぐことができる相続財産の割合(法定相続分)が定められています。
必ず法定相続分のとおりに遺産を分割しなければならないわけではありませんが、相続税を計算する過程では法定相続分を使うため、理解しておきたいものです。
【法定相続分の表】
配偶者のみ | 配偶者が全部相続 |
配偶者と子 | 配偶者 1/2 、 子 1/2 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者 2/3 、 直系尊属 1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 3/4 、 兄弟姉妹 1/4 |
注)子、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は、上記の相続分を人数に応じて分けます。この割合で按分計算するわけです。
2.相続税の計算のあらまし
相続税を計算する方法
相続税の税額は、遺産総額やそれぞれの相続人が受け取った遺産の額に税率をかけて計算し、求めるものではありません。
簡単に言えば、法定相続人が法定相続分で遺産を引き継いだと仮定して、法定相続人ごとの税額を計算します。それらを合計して実際に遺産を相続した割合で按分計算した金額が、それぞれの人の相続税の額となります。
それぞれの人の相続税の額から、各人の事情に応じて控除や加算を行って計算した結果、各人が納付する相続税額をて求めます。
控除には、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除などがあります。これらの控除の計算方法については、このあとの「配偶者は1億6,000万円まで非課税」と、「未成年者・障害者の相続税は軽減される」で説明します。
加算とは、一定の範囲の親族以外の人が相続した場合、相続税が2割増しで計算されるというものですが、この記事では計算が複雑になるのを避け、相続税計算の概略をつかみやすくするためにその計算の説明を省略します。
なお、相続時精算課税や相続開始前3年以内の贈与のある場合も同様に計算が複雑になるため、この記事では省略しています。
相続税が課税されるのはこの金額から
「税制変更で課税対象者が増加する?」でもお伝えしたように、相続税には基礎控除額があり、その計算の結果、遺産総額が一定額以下であれば、相続税はかかりません。
基礎控除額は次の算式で計算されます。
基礎控除額を計算するときに気をつけなければならないのは、法定相続人の数です。
相続税や基礎控除額を計算する上では、法定相続人に加えることができる養子の人数が制限されています。原則として実の子がいる場合は1人まで、実の子がいない場合は2人まで法定相続人に加えることができます。これは、
法定相続人の数を増やせば、基礎控除の計算上、控除額を大きくすることができるため、これによる税逃れをするのを防ぐためです。
また、法定相続人は相続を放棄することができますが、相続税や基礎控除額を計算する上では、相続放棄はなかったことにされます。つまり、相続を放棄した人も法定相続人の数に含めます。
相続税が課税される財産
相続税が課税される遺産には、次のようなものがあります。
1、被相続人が亡くなったときに所有していた財産
具体例としては次のようなものがあげられます。
- 現金、預貯金
- 有価証券
- 土地、家屋などの不動産
- 事業用資産
- 家具、自動車などの動産
- 貴金属、書画骨董など
2、死亡保険金や死亡退職金など
死亡保険金や死亡退職金などは、被相続人が亡くなったときに所有していた財産ではありません。
しかし、被相続人が亡くなったことを理由に支払われることから、相続税を計算する上では、実質的に被相続人が亡くなったときに所有していた財産とみなされます。
3、生前贈与された財産
相続税の課税を免れるための生前贈与を防ぐため、生前贈与した財産の一定の部分には相続税がかかります。生前贈与で贈与税が納められている場合は、その分を相続税から差し引いて計算します。
相続税が課税されない財産もある
相続で引き継いだ財産のすべてについて、相続税が課税されるわけではありません。
次にあげる財産には、相続税はかかりません。これらの財産は、その性質や公益性などから、相続税を課税することがそぐわないと考えられているため、計算の基礎から除かれるからです。
- 死亡保険金、死亡退職金のうち、500万円×法定相続人の数で計算される金額
- 勤務先などから受け取った弔慰金(非課税となる金額には上限あり)
- 墓地、霊廟、仏壇、仏具などのような祭祀財産
- 相続税の申告期限までに国などに寄付した財産
相続税を軽減するために高価な仏具を購入するという方法が各方面で紹介されています。しかし、日頃から祭祀の対象としているのでなければ、仏具であっても非課税財産として認められない場合があります。
被相続人の借金や未払金はマイナスする
相続では、原則として預貯金や有価証券、不動産といったプラスの遺産だけでなく、借金や未払金などマイナスの遺産も引き継がなければなりません。計算においては、これらも忘れずに考慮する必要があります。
相続人がプラスの財産とマイナスの財産の両方を引き継いだ場合、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた額について相続税がかかります。
マイナスの財産としてプラスの財産から差し引くことができるものとしては、次のようなものがあげられます。
- 借入金(住宅ローン、マイカーローンなど各種ローンも含む)
- 被相続人が不動産賃貸を経営していた場合などの預かり敷金
- 未払いの医療費、税金
墓地を購入するための借入金は差し引くことができません。「相続税が課税されない財産もある」でお伝えしたように、墓地は非課税財産となっているからです。
葬儀費用もマイナスできる
葬儀などにかかった費用も相続税が課税される財産の額から差し引くことができます。これも計算のポイントのひとつです。
社会通念上、通夜や告別式などの葬儀を行うのは当然のことであり、その費用は亡くなった人の遺産から負担するべきであると考えられているからです。
葬儀費用として遺産から差し引くことができる費用には、次のようなものがあります。
- 仮葬儀、通夜の費用
- 本葬の費用
- 葬儀の前後で生じた出費で通常必要と認められるもの
- 遺体の捜索、運搬費用
香典返しや初七日以降の法要の費用は差し引くことができないので、計算に含めないよう注意が必要です。
配偶者は相続財産が1億6,000万円以下または法定相続分以下なら非課税
配偶者が相続した相続財産の課税価格(基礎控除後の価格)を計算した結果、それが1億6,000万円以下の場合は、配偶者の相続割合に関係なく、配偶者に相続税は課税されません。
また、配偶者が相続した相続財産の課税価格が1億6,000万円を超える場合も、配偶者の相続割合が法定相続分以下であれば、同様に相続税はかかりません。
仮に配偶者が10億円の相続財産を相続しても、法定相続分の範囲内であれば、配偶者に相続税は課税されません。
配偶者の相続割合が法定相続分を超える場合は、その超える部分について相続税がかかるので、税率をかけて計算します。
配偶者の税額軽減を適用する場合は、相続税が課税されないことがわかっていても、相続税の確定申告書に必要事項を記載して税務署に提出する必要があります。
未成年者・障害者の相続税は軽減される
1、未成年者の税額控除
被相続人から相続財産を引き継いだ法定相続人で20歳未満の人は、相続税の額から一定の額を計算して控除します。
控除額の計算は、相続のときから20歳になるまでの年数×10万円 となります。
(年数に1年未満の端数があるときは切り上げます。)
2、障害者の税額控除
被相続人から相続財産を引き継いだ法定相続人で85歳未満の障害者は、相続税の税額から一定の額を計算して控除します。控除額は次のとおりです(年数に1年未満の端数があるときは切り上げます)。
- 一般障害者
相続のときから85歳になるまでの年数×10万円 - 特別障害者
相続のときから85歳になるまでの年数×20万円
いずれの場合も、相続税額より控除額のほうが大きいと、控除額の全額が引ききれません。そのような場合は、引ききれない金額を扶養義務者の相続税額から差し引きます。
相続税計算のシミュレーション(その1)
ここまでの説明を踏まえて、相続税計算のシミュレーションをご紹介します。まずは、相続人が配偶者と子であるケースです。
【例1】
遺産総額:1億円(すべて課税対象であり、非課税の財産はありません。)
法定相続人:配偶者と子2人(計3人)
相続財産は法定相続分で分割します。
配偶者控除以外の控除や各種特例は受けないものとします。
l 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3(法定相続人の数))=4,800万円
l 課税遺産総額:遺産総額1億円-基礎控除額4,800万円=5,200万円
l 法定相続分による各相続人の取得金額を求めます。
配偶者:課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/2=2,600万円
子(一人あたり):課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/4=1,300万円
l 相続税の総額を求めるために、各相続人の仮の税額を求めます。
配偶者の仮の税額:取得金額2,600万円×税率15%-控除額50万円=340万円
子の仮の税額(一人あたり):取得金額1,300万円×税率15%-控除額50万円=145万円
l 相続税の総額を求めます。
配偶者の仮の税額340万円+子の仮の税額145万円×2人分=630万円
l 相続税の総額を実際の遺産分割の割合(この例では法定相続分)で分けて、各人の相続税額を求めます。
配偶者の相続税額:相続税の総額630万円×遺産分割の割合1/2=315万円 → 0
配偶者の取得金額(5,200万円×1/2=2,600万円)が1億6,000万円を下回るため、配偶者の税額軽減により配偶者の相続税額は0となります。
子の税額(一人あたり):相続税の総額630万円×遺産分割の割合1/4=157.5万円
相続税計算のシミュレーション(その2)
次に、被相続人に子がおらず、両親や祖父母もすでに亡くなっているため、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹になるケースの具体的な計算をご紹介します。
【例2】
遺産総額:1億円(すべて課税対象であり、非課税の遺産はありません。)
法定相続人:配偶者と被相続人の兄弟2人(計3人)
遺産はすべて配偶者が相続します。
被相続人の兄弟は相続を放棄し、遺産は受け取っていません。
配偶者控除以外の控除や各種特例は受けないものとします。
l 基礎控除額:3,000万円+(600万円×3(法定相続人の数))=4,800万円
相続放棄した兄弟も法定相続人の数に含めます。
l 課税遺産総額:遺産総額1億円-基礎控除額4,800万円=5,200万円
l 法定相続分による各相続人の取得金額を求めます。
配偶者:課税遺産総額5,200万円×法定相続分3/4=3,900万円
兄弟(一人あたり):課税遺産総額5,200万円×法定相続分1/8=650万円
l 相続税の総額を求めるために、各相続人の仮の税額を求めます。
配偶者の仮の税額:取得金額3,900万円×税率20%-控除額200万円=580万円
兄弟の仮の税額(一人あたり):取得金額650万円×税率10%=65万円
l 相続税の総額を求めます。
配偶者の仮の税額580万円+兄弟の仮の税額65万円×2人分=710万円
l 相続税の総額を実際の遺産分割の割合(この例では配偶者が全額相続)で分けて、各人の相続税額を求めます。
配偶者の相続税額:相続税の総額710万円×遺産分割の割合1/1=710万円 → 0
配偶者の取得金額(5,200万円)が1億6,000万円を下回るため、配偶者の税額軽減により配偶者の相続税額は0となります。
兄弟の税額(一人あたり):相続税の総額710万円×遺産分割の割合0=0
相続財産の額が基礎控除額を超えているものの、計算の結果、誰も相続税を払わなくてよいことになりました。
3.相続税が課税される財産の価値を調べる
相続税の計算は相続財産の価値を調べることから始まる
相続税を計算するためには、まず相続財産の価値を評価して計算しなければなりません。
遺産の価値は被相続人が亡くなった時点の時価で評価することとされていますが、不動産や取引市場のない株式などの時価を調べることは難しいものです。また、同じ資産でも評価する人によって時価がまちまちになれば、課税の公平性が損なわれることにもなります。
そこで、遺産の価値を評価するための基準として、「財産評価基本通達」が定められています。この通達にはあらゆる資産の評価方法が記載されていますが、この記事では、相続財産として代表的な宅地、家屋、預貯金、有価証券などの評価方法を簡単にご紹介します。
土地の価値を調べる
土地の価値を評価する方法には「路線価方式」と「倍率方式」があります。一般的に市街地にある土地は路線価方式で、それ以外の地域にある土地は倍率方式で評価します。
路線価方式は、土地に接する道路に定められた路線価に土地の面積をかけて評価額を計算して求める方法です。土地の形状、奥行の長さや間口の幅などによって評価額を調整することもあります。
倍率方式は、固定資産税評価額に、国税庁によって定められた評価倍率をかけて評価額を計算して求める方法です。
路線価や評価倍率は、国税庁のホームページにある路線価図や評価倍率表で確認できます。
固定資産税評価額は、固定資産税の納付通知書とともに送られる課税明細書に記載されています。また、市区町村役場(東京23区は都税事務所)で固定資産評価証明書を発行してもらうこともできます。
なお、土地に関しては、「小規模宅地等の特例」によって、要件を満たした一定の土地については大幅に評価額が下がることがあります。要件は細かいので、税理士に確認するとよいでしょう。
建物、預貯金の価値を調べる
1、建物
建物の価値は、固定資産税評価額と同額で評価します。
建築中の建物を相続した場合は、固定資産税評価額がまだ決められていないので、相続までに建物の建築にかかった費用の70%の金額で評価します。建物の建築にかかった費用は、建築業者に見積もってもらうとよいでしょう。
2、預貯金
普通預金は亡くなった日の預入残高で評価します。定期預金は亡くなった日の預入残高に解約利子(源泉所得税を差し引いた後の金額)を加算します。
預入残高を確認するためには、通帳に記帳するほか、金融機関に残高証明書を発行してもらうこともできます。
株式、投資信託などの価値を調べる
1、上場株式など市場価格のあるもの
上場株式、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)の1株(1口)あたりの価額は、次の市場価格のうち最も低いもので評価します。
- 被相続人が亡くなった日の終値
- 被相続人が亡くなった月の終値の平均額
- 被相続人が亡くなった月の前月の終値の平均額
- 被相続人が亡くなった月の前々月の終値の平均額
2、投資信託
投資信託は、被相続人が亡くなった日の基準価額に口数をかけて評価します。解約時に源泉徴収される税金や解約手数料、信託財産留保額があればその金額を差し引きます。
3、非上場株式
非上場株式には市場価格がなく、株式を発行する会社ごとにその価値を見積もる必要があります。非上場株式の価値の見積もりは、相続や事業承継に通じた税理士に相談することをおすすめします。
自動車、書画骨董品、ゴルフ会員権の価値を調べる
1、自動車
自動車の価値は、実際の取引価格を参考に評価します。中古車取引業者などに見積りを依頼するとよいでしょう。
2、書画骨董品
書画骨董品の価値についても、実際の取引価格を参考に評価します。書画骨董品を扱っている専門家に評価を依頼するとよいでしょう。
3、ゴルフ会員権
ゴルフ会員権はその形態によって評価の方法が異なります。そのため、相続したゴルフ会員権の形態をよく確認する必要があります。
- 取引相場がある場合
次の算式によって評価します。
亡くなった日の取引価額×70%+取引価額に含まれない預託金の額
- 取引相場がない場合
- 株主でなければ会員になれない場合:株式と同様の方法で評価します。
- 預託金を預託しなければ会員になれない場合:返還される預託金の額で評価します。
以上の条件に当てはまらない会員権は、評価額がつかないこともあります。
4.相続税の申告は自分でできる?
相続税の申告書は自分でも書ける
相続税の計算と申告は必ず税理士に依頼しなければならないとお思いではないでしょうか。
相続税の計算と申告は必ずしも税理士に依頼する義務はなく、自分で計算して申告書を作成して提出することもできます。
相続税の申告書の用紙は各地の税務署にあるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。記入方法のマニュアルもあるので、参考にするとよいでしょう。
自分で相続税を計算して申告するメリットは、費用が抑えられることです。しかし、税額計算を間違えたために税額が追加されたり、逆に納めなくてもよかった税金を納めていたりといったケースはよく聞かれます。
少しでも難しいと感じる場合は、報酬を支払ってでも税理士に依頼することが賢明です。
相続税の納税期限は10か月後
相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内にしなければなりません。「相続税は10か月後の月命日までに申告・納税する」と覚えておけばよいでしょう。
10か月もあれば余裕があるようにも思われますが、相続税を申告するまでに、相続人どうしでどのように遺産を分割するか話し合う必要があります。相続人どうしで意見が合わなければ、話し合いに時間がかかってしまいます。
また、相続税は現金で一括払いすることが定められています。相続した財産の多くが不動産である場合などは、納税のための資金が不足することも考えられます。
納税資金の不足が見込まれるのであれば、相続した遺産を売却して現金に換えるなど、資金を準備する必要があります。
ただし、土地を売ると「小規模宅地等の特例」が使えなくなる場合もあるので、事前に税理士に相談するとよいでしょう。
期限までに納税できない場合は?
期限までに納税できない場合には、次の二つのケースがあります。
1、納税資金がない場合
納税資金がない場合の救済措置として、相続税には延納制度と物納制度があります。
延納は、一定の年数を限度に相続税を分割払いできる制度です。分割払いする部分には利子税が加算されます。
物納は、延納しても相続税が納税できない場合に、被相続人から相続した遺産をそのまま納めることができる制度です。
2、遺産分割協議がまとまらない場合
相続税を申告するときには、相続人どうしで話し合って、遺産分割を終えておくことと定められています。
相続税の申告期限までに遺産分割の話し合いがまとまらない場合は、一度、法定相続分で遺産分割したと仮定して相続税の申告と納税を行います。
後日、遺産分割の話し合いがまとまれば、必要に応じて申告をやり直します。
相続税を申告しないと延滞税や加算税などのペナルティーが
相続税の申告を期限までに行わなかった場合は、たとえうっかり忘れていただけであっても、延滞税と無申告加算税がかけられます。
相続税を免れるために故意に申告しなかった場合は、無申告加算税に代えて、より高額な重加算税がかけられることになります。
相続税を申告しなければ相続税を納めなくてもいいだろうという考えで申告をしない人もいるでしょう。しかし、税務当局は過去の所得や預金の記録などからおおよその資産を把握していて、疑いがある場合は相続人に連絡するほか、自宅を訪ねて財産の調査をすることもあります。
高額のペナルティーをかけられないためにも、期限を守って正しく計算し、申告・納税するようにしましょう。
難しい場合は税理士に依頼を
先ほど「相続税の申告書は自分でも書ける」でご紹介したように、相続税の申告は自分で行うことができます。しかし、複雑なケースでは、税理士に相続税の申告を依頼することをおすすめします。
相続税にはさまざまな特例があり、税額を大幅に軽減することができます。しかし、特例のメリットを受けるには細かい要件があり、要件に当てはまるかどうかの判断には、専門家のノウハウが必要になります。
税理士のなかでも、相続税の申告の実績が豊富な税理士に依頼することが大切です。一般的に、税理士は所得税や法人税に精通していることが多く、相続税にあまり詳しくない税理士もいるのが実情です。
報酬は数十万円程度必要ですが、遺産の総額または税額計算や手続きの難易度によって加算されることがあります。
5.相続税の申告方法
相続税の申告書はどこで入手できる?
相続税の申告書は第1表から第15表までで構成されています。これらの表には付表もあるため、書類の種類は20種類を超えます。ただし、必ずしもこれらの表のすべてを使うわけではありません。
相続税の申告書の用紙は各地の税務署にあるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。
国税庁ホームページ 相続税の申告書等の様式一覧(平成27年分用)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h27.htm
相続税の申告書の記載方法
相続税の申告書は、順番どおり第1表から書こうとすると途中で手が止まってしまいます。次のような順序で記載するとスムーズに作成できます。
1、誰がどれだけ遺産を引き継いだか計算する
- 第9表 生命保険金などの明細書
- 第10表 退職手当金などの明細書
- 第11表 相続税がかかる財産の明細書
- 第13表 債務及び葬式費用の明細書
- 第15表 相続財産の種類別価額表
- 第1表 相続税の申告書
2、課税価格の合計と相続税の総額を計算する
- 第1表 相続税の申告書
- 第2表 相続税の総額の計算書
3、加算と控除をして納付する税額を計算する
- 第4表 相続税額の加算金額の計算書・暦年課税分の贈与税額控除額の計算書
- 第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
- 第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
- 第1表 相続税の申告書
具体的な記載例などは、下記の記入方法のマニュアルを参考にすることができます。
国税庁ホームページ 相続税の申告のしかた(平成27年分用)
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sozoku/shikata-sozoku2015/index.htm
相続税の申告書の提出先と添付書類
相続税の申告書が完成すれば税務署に提出します。提出先は被相続人の住所を管轄する税務署です。遠方の場合は、郵送で提出することもできます。
相続税の確定申告書には次の書類を添付します。
- 被相続人の出生から死亡までの登記簿謄本など、被相続人の全ての相続人がわかる戸籍謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)
- 遺産分割協議書の写し、遺言書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書
- 財産評価の根拠となる書類
申告書を提出すれば、納付書に納付金額と必要事項を記載して、金融機関(銀行・信用金庫など)の窓口を通じて納税します。
6.まとめ
以上、長くなりましたが、相続税計算のアウトラインをご紹介しました。相続税とはどのような税金で、税額の計算から納税までのプロセスはどのようになっているかがお分かりいただけたことでしょう。
この記事をご覧になって、自分でも計算して申告できそうだと感じられたのであれば、自分で計算・申告することにチャレンジするのもよいでしょう。
一方、やはり難しそうだと感じられたのであれば、迷わず税理士に依頼しましょう。税理士の中でも、相続税の申告に精通した税理士に依頼することをおすすめします。